紫色のつぶやき

どうせそんな悩みは1年後にはどうでもよくなってる

読書「傲慢と善良」 傲慢になる瞬間は誰にでもやってくる。あるいは婚活の秘訣

 

 

 

 

注)ネタバレ有です!

 

まさか辻村深月作品でこんなにも心をえぐられるとは思ってもみなかった。朝井リョウかと思った。。。

傲慢と善良という二つの性格が対比された本作。恋愛小説とあるがテーマはズバリ婚活だろう。

 

 

半年前までマッチングアプリに精を出し、そこで彼女ができた私だからこそ、共感できる部分も多々あったので印象に残った部分を書き残していきたい。

 

アプリを通じて出会い、2年付き合い、結婚することになった二人。

男性側、架は付き合って2年にもなる恋人真実に対して結婚を決めず、いつかは結婚するだろうと高をくくった傲慢な性格、一方の女性側真実はいわゆるいい人、善良な性格だが自分の考えを口にしたり、親の影響なども強く自分がどうしたいという願望も乏しい。というのが最初の設定。

いい人というのはアプリや婚活ではことごとく苦労するというのを経験者は嫌というほど知っているはずだ。

 

欲しくなる責任と苦悩

自由気ままな恋人同士ではなく、ともに家族まで巻き込んだ社会的な関係になり、親を安心させる。あれだけ抵抗があった結婚に伴う「責任」こそが、むしろ欲しくてたまらないものに感じられるようになってくる。

辻村 深月. 傲慢と善良 (朝日文庫) (p.60). 朝日新聞出版. Kindle 版.

 

かつて架は元カノに結婚を迫られても結婚を決めきれなかった。それが理由で別れたのだが、別れた後に架が考えていた事だ。

かつての自分と似ている。結婚とか、子供とかどうしてみんなそんなめんどくさいことをするのだろう、と私も思っていた。数年前に自分が書いているブログがまるで自分ではないみたいだ。

 

www.purple-tweet.com

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だが今は私も彼女と結婚したいと考えているし子供だって持ちたい。このまま独身では40代、50代を乗り切れないという不安など自分のことが第一に来てしまうのだが、この年になって楽だけではなく、苦労も求めるものだと最近感じる。

 

何%結婚したいか?相手につける点数

「じゃあさ、今、何パーセントくらい結婚したいの? 架」

「え?」

「あの子と結婚したい気持ち、今、何パーセント?」

「──七十パーセントくらいかな」

架がそう答えた瞬間だった。美奈子の顔に意地の悪い笑みが浮かぶ。

「ひどいなぁ」と彼女が言った。

「ひどい?」

「今私、パーセントで聞いたけど、それはそのまま、架が真実ちゃんにつけた点数そのものだよ。架にとって、あの子は七十点の彼女だって、そう言ったのと同じだよ」

辻村 深月. 傲慢と善良 (朝日文庫) (p.82). 朝日新聞出版. Kindle 版.

 

傲慢な考えを捨てたと自分では思っていても、彼女をいつかは幸せにしてあげたいと思っていても、こういう場面で70%と答えてしまう男性は(女性も)結構多いんじゃないだろうか?これこそが傲慢さである。

後のこのやり取りは彼女の真実にはバレてしまう。。。もちろん70点という点数が低いわけではないことくらい頭では分かるが、一生を共に過ごす相手として高いとも思えない。

 

現実では100%で結婚したカップルなどほとんどいないのかもしれない。それが現実だとしても自分は即答で100%と答えられる人でいたいと思う。

70%と答えて誰も得しないような気もするし。。

 

他人を値踏みしてしまう傲慢さ

ありえない、と蓋をする前に、ほんの少し、考えてみても、よかったんじゃないのか。

辻村 深月. 傲慢と善良 (朝日文庫) (p.404). 朝日新聞出版. Kindle 版.

 

マッチングアプリをしていて私は最初の方に気づけたので良かった事柄がある。それは私は「選ぶ側」ではなく「選ばれる側」だということだ。言葉自体は知ってはいたが、それを知っているのと実際に行動に活かせるかどうかは天と地ほどの差がある。

過去何度もマッチングアプリ市場に挑んでは散っていく経験をした私だからこそ、今回だけは会ってくれたすべての人に楽しんでもらいたい、選んでもらいたいという一心で頑張ることができた。

出会ってくれたすべての女性を口説き、自分自身は選ばれる側になれるよう努力した、、つもりではある。でもアプリやLINEで連絡が途絶えることは一度や二度ではなかった。多少のショックは受けたがそんなことを気にする必要もないくらい数をこなした、時間を割いた。

 

そしてそれは自分でも同じだった。出会ってくれたすべての女性を口説くと言いながらも結局自分でも連絡を切ったり、アポを断ったりした。

時間は有限だ、ここで切った方がお互いのためになる、などもっともらしい言い訳をしながらも自分は他人を値踏みし、傲慢になっていたのだ。

まだその時は彼女もいなかったし、ましてやX(Twitter)にいるナンパ師のようにアプリのいいね数数百ではなく、たったの数十だった。。。

そんな自分でも選ぶ側に回ってしまっているんだとこの本を読んでようやく気付いた。

 

おわりに:人生がうまく行く秘訣?

昔は割と平和に始まって平和に終わっていく辻村深月作品は好きだった。「凍りのくじら」「スロウハイツの神様」「光待つ場所へ」などを読んだ記憶がある。

 

久しぶりに読んだ今回の作品はかなり心をえぐられるような内容、そしてタイムリーに自分に近い内容に驚きと興奮を隠せず一気に読んでしまった。

ちょっと心をえぐられすぎてすぐに今の彼女に勧めようとは思えない作品だけど結婚するときになったらこの本の話をしたいな。

最後に、作品中に出てくる結婚相談所の人が言っていた婚活がうまく行く人の秘訣を提示して終わりましょう。

 

「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人」

辻村 深月. 傲慢と善良 (朝日文庫) (p.114). 朝日新聞出版. Kindle 版.